仕事で青森行きが決まった時点で、やはりSR600奥入瀬は走らねば!という気持ちにスイッチが入っていた。
去年秋に本当は走りたかったのだが、今の自分のライドスタイルだと初日に走れるところまで走って(16~18時間)そこで寝る、で行くと、八幡平のクマ出没地域に夜中で仮眠っていう、一番望まない状況になりかねないな、と。
もしかしたら仲良くなったりするかもだけど・・・
と言っても今年もそんなに変わらないのだが、時期的に秋の冬眠を考える季節とは違うし、クマもオッサンは食べないでしょ!という読みだった。オレがクマだったらオッサンは要らない。根拠はそれだけだ。
あれ?婆さん襲われて食われてる??いや、やっぱりオッサンは大丈夫だ。あとワクチンまだだったらクマも感染怖いし要らないだろ。そうだそうだ、そうに違いない・・・
ただひたすらクマの事ばかり考え、どこを見てもクマは潜んでないか、異臭がするとクマじゃないか?とか・・・でもどうやらそんなにはいないのだろうか、結論で言うと一度も遭遇しなかった。やはりオッサンだからだな・・・
最近SR600のスタートは8時が定番。
16時間ライドがいつもの一つの目安で、15時間アベレージ20キロで300km、それに1時間おまけ。
走行の目安の36時間コンプリートは翌日20時で、洗濯などの片づけをして爆睡してもホテルの朝食ぐらいには意識戻っている時間。
走行時間の計算もしやすい。過去に7時半とか試そうとしたが、途中で頭が酸欠で計算できない。
0時や6時も計算しやすいのだが、0時はFUJIのようにいい時間帯で渋峠通過したいとき以外は睡眠時間削ってまでアタックするのはリスクだし、6時だとホテルの朝食をパスしないといけない。それだったらホテルじゃなくてお得意のバスストップホテルやステーションホテルでいいだろう。それならアメニティもないが宿泊代もタダだ。
八戸の郊外へと抜ける道を走っていると、意外と?八戸は大きい町だ。密集していないとも言えるが、郊外に出るのに思っていたよりも時間がかかったし、通勤時間帯だったこともあり交通量も多かった。
八戸から南下し軽米から岩泉そして盛岡へ。
このあたりは獲得標高を地味に稼いでいるがスピードはそれほど低下しない。
信号が基本ないのでスピードも比較的安定しているし土地勘はないのだがルートもわかりやすいのが有難い。
早坂高原を越えると、それまでなんとなく太平洋を感じる位置だったのがいっきに奥羽山脈に近づき海を感じなくなる。
福島県の浜通り、中通りのように、気候も伝わってくる生活も違い始める。
朝8時から走って盛岡へ抜けて雫石の国道46号バイパスにあるコンビニでは18時。ちょうど10時間ほど。と、天気予報通りポツポツと雨が降り始める。
ここまではそれほど暑さも感じない東北の夏で快適だったが・・・
田沢湖に近づくにつれ雨足は強くなる。
ゲリラ豪雨のように降りつける雨。荷物などを再度防水確認するのに道の駅に止まる。ゆっくりでも走っているといつか辿り着くが、こういうこまごまとした作業ストップは、意外とロスが増える。
田沢湖からいよいよ八幡平アスピーデラインへと向かっていく。
雨でライトの光を吸い取られ、あたりの暗さがより際立っている。
真っ黒なクマが目の前にいても絶対気づかないな・・・
以前巨大なイノシシ2頭が大雨の時に目の間に立ちはだかっていて本当に心臓が止まりそうになったことがある。あと1mほどでオレが気づいてキューブレーキ。しかしイノシシはそのまま立ちすくんでいた。
挙動不審にきょろきょろとしながら前へ進む。
と、大雨の影響か長期使用の経年劣化かGPSが起動しない。しても画面は真っ白に。
走行ログは別のGPSで取っているが、マップ用にと持参。
ここまでルートが単純で起動していなかったが、この先のPCがどこなのか、マップ上の位置は地図で覚えていたのでそのために地図を見たかったのだが・・・
しかたない、「目分量」でPCの位置を測るしかない。
嵐の中を登っていく。
何も見えないが標高は決して高くはない。真っ暗なのであたかもとんでもなく高いところを走っている気分になるが、焦る必要はない。
今までもっと荒れたコンディションでの経験を駆使すれば恐れなくてもいい。同じような、いや、もっと過酷だったコンディション、美ヶ原の頂上に暴風雨で真夜中とかと比べたら、全身の鳥肌が止まらないような、魂の奥深くから警戒アラート発令されまくりなコンディションと比べたら、それほどのことはない。
アスピーデラインでは疲労と睡魔、闇、そして暴風・・・
スピードの落ちる要素しかない。
途中蒸けの湯休息所で休憩?避難??
雨粒が大きく横から叩きつけてくることからどこかで逃げ出したくなる。オープンなエリアだったので半ばあきらめしていたが、休息所を発見それも自動販売機があったので迷わず非難。缶コーヒーが妙に勇気を増幅してくれる。疲れている。そんな自分の信号すら感じ取れていなかった。最悪寝てもいいやと腰を下ろす。
そう言えば台風が温帯低気圧に変わって日本海沖を北上するって言っていた。まぁ台風みたいなもんだ。
そう考えるうち
よし、落ち着いた!
座ってい缶コーヒー飲んだら落ち着いた。
ここに長居をしても正直あまりいいことはない。今なら気温は高いままだから頂上に行って下ってしまうことも難しくない。もう一度気合いを入れなおして進み始める。
標高が上がるたびにオープンエリアでは爆風。1車線ぐらい横にスライド。おお、久しぶりの嵐ライドだ。これで標高あと500m高かったら美ヶ原での嵐と同じだ。あの時は1車線以上スライドし、下りでは「オレはそこを走りたくないんだ!」と叫びたくなるほどに、思ってもないラインへと風で押し込まれていた。
今回のアスピーデラインもなかなかのパンチ力だが、そもそも頭に酸素入っているのがわかるので、意外と冷静に対処していることを理解している。
頂上では長居はしないが、標高差を考えるとブレーキを少しアジャストしてブレーキタッチを若干きつめにセッティング。ブレーキシューがどれだけ減るのか読めない。
なるべくブレーキシューは減らないような走りを心がけなければ。
良い感じの落ち具合?なダウンヒル。下っても下っても底に辿り着かない。
こういう時の怖さは
「この道、ホンマに合ってるの??」
間違っていたら最悪だ。
日中なら枝道もはっきりとわかるが、闇だと意外と枝道など他の道が視認できていないこともある。ライトの照らされている世界だけで完結しようとしてしまう傾向にある。特に今回のようにGPSのマップ表示などできないと、どっちを向いているのかもわからない。
下り切ってからスマホで地図確認。どこにいるのかさえ分からない。多分安比高原のあたりのはず。駅からはそれほど離れていないはず、10㎞以内だろう。地図を見るとだいたいあっていた。
コンビ二へ行くか、結構眠いのでどこでもいいからいつもの如く(ホテルじゃないけど)チェックインするか・・・
お腹は補給食を6時間は楽勝で持つぐらい購入しているし、運動強度を下げて走ることでグリコーゲン消費量は抑えているから大丈夫(のはず)
で、適当に寝られそうな場所を発見したので、1時間半ほど、朝になるまで寝よう。
GPSの充電やスマホの充電もしたいので、睡眠を合わせてすれば一石二鳥だ。
朝は雨はやんでいるがすっきりしない。
北上していくと路面は乾いていく。安代のローソンで朝食。ホットコーヒーが美味しい。
ここまで過酷なコンディションだったがようやく追い風。お!神風!!
そう言えばなんとなく八戸から岩手県に入ってしばらくまでは追い風っぽく気持ちよく走れた。たった24時間前の事なのに妙に懐かしい。
国道104号線へと抜ける県道は思いのほか消耗するようなアップダウン、地味に獲得標高を稼ぎ出している。
風の恩恵もなくなり、そしていつの間にか雨がパラパラと。
国道104号で秋田県境へ。この辺り青森県や岩手県と忙しい。そして土地勘が若干ないの尚更頭の中で混乱気味。混乱と言えば勝手に十和田湖は青森県と思っていたが半分近くは秋田県だし。
降ったりやんだり。時折激しく。十和田湖から虹の湖へと下り、傘松峠を経由して奥入瀬そして十和田湖へと戻ってくる。十和田湖自体はそれほど標高は高くないが、その周りの山は険しいので必然的に十和田湖の周りをうろうろとすることになる。
残り距離も徐々に減ってきて気持ちも軽やか、登りでもなぜかスムーズに走れる。
傘松峠からの下りももう終わるというところで機材トラブル。
詳細は書けないが、走行不能になるレベル。15分ほど本当にあっけに取られて立ちすくんでいたが、こんなところで途方に暮れても時間の経過とともにあまりよろしくない場所になる。暗くなったら何もないし脱出するのならさっさとしないと。
濁流と化した蔦川を見て途方に暮れていたが、ハッとひらめいた。
自分のバイクに装着しているものを加工すれば脱出するための応急処置ができるかも!
そして橋の上で工作開始。なんとか30分ほどで走行再開。奥入瀬川沿いではビビりながら走っていたが何とか使えそうだ。
十和田湖から八戸までは下りそして平たん基調。大きく登るポイントはない。
ここまで意外なほどにスムーズに走れたから36時間も切れそうだ。
日が暮れるまでは無駄に止まりたくない1mでも前に進みたい。
ややお腹が空いてきたが、ゴールまでの距離を考えれば我慢できそう。
残り20kmほどで日が暮れていく。最後は少し交通量多めでストレスだったが、35時間16分で八戸に到着。
トラブルなく大雨でなければ34時間も切れたかな?と思うが、それはまた次回、多分来年のお楽しみだ。
ゴール地点にはサポーターの方がわざわざ青森から応援に駆けつけてくださり、八戸駅で到着を待ち構えていたようだ。36時間ゴールに山を貼っているとは、オレのスタート前の予測よりもすごいかもしれない。
一人でこじんまりゴールの予定が、なぜか意識しながら八戸駅へ。
自転車は何と言っても無事にゴールへ戻れることが大事だ(ちょっと無事ではないのだが)
SR600奥入瀬は
とにかく補給ポイントが少ない。しかし信号も少ないし交通量も少ないし、流れるように進んでいける。
基本夜も走るから他の人とは見える景色もルートの感じ方も違うのだが、印象的なのはとにかく緑がキレイ。自分が走ったことのあるSR600の中ではダントツで緑がきれいだ。
もしこれがクラシックレースだったら「緑のクラシック」と名づけるだろう。
登りも基本的にそれほど険しくないし、下りもスムーズに走っていける。
奥入瀬の景色は雨だったが、それゆえにいつも見る以上に緑と自然を感じることができた。奥入瀬渓流はきれいすぎる。
まぁ気がかりはクマが頻繁に出没して、場所によっては襲ってきているということか。
もし適当に仮眠して走る人は、そういうクマが出そうなところでは寝ないようにとしかアドバイスできないが。ロードステーションホテル(道の駅)やステーションホテル(駅)バスストップホテル(バス停)は絶対とは言わないが、クマには遭遇しにくいと思う。
そして今回は暑かったが基本的に東北の夏は短い。
もしこれからチャレンジする人がいたら、防寒具などには気配りしたほうが良いかもしれない。
八戸で大急ぎでシャワーして食事へ。
自分へのご褒美の生ビールはすごい勢いで五臓六腑に染みわたり、すべての機能を停止へと導いた。
8時スタート
何か写真をと思うが、とにかく何もない・・・
嗚呼、何もない。
今回はフルジェル4個持参。意外と腹持ちがいいし疲れているとき甘さがちょうどいい。
三田分校跡の道の駅、ここはなんだかずっといたくなるような落ち着きだった。
雫石のコンビニで晩御飯。
あれ?スタートからここまでノンストップかも。
どこだかよくわからない・・・
嵐に負けて避難。寝てもいいやと寝る準備。しかし缶コーヒーで復活しやっぱり走り出す。
まるで台風のような雨粒の大きさだった。
安比の朝は霧雨でスタート
雨雨雨・・・
秋田県境では土砂が国道に流出していてアスファルトが見えない。深さだいたい15センチはあった。
後半のピークとも言える傘松峠
17時16分、八戸駅に戻ってきた。