今回出場するレースはオランダのグラベルレース
ONE FIFTY
UCIグラベルワールドシリーズのひとつで、ここで上位で完走すると10月にベルギーで開催される世界選手権の出場資格を得ることが出来る。今年世界選手権は出場できるなら今年最大の目標となるイベントで、出られるのか否かはこの大会にかかっている。
人生で初のグラベルレース。なので何も要領を得ていないのだが、長年プロで走っていると、いろいろな情報を照らしわせていくと、おおよそそれがどういう展開になり、どういう戦略戦術で動いていくのかを予測できるようになっていく。
PBP(パリ・ブレスト・パリ)の時も、1200kmを「レース」感覚で走るとしたら・・・
過去だいたい自分の予想を大きく超えたことはない。
そして今回のグラベルレースもきっとそうだろう、と。
プロ時代、いくつかのグラベルを売りにしていたレースには出ている。チームの中でも石畳やグラベルを含むレースには特性を持っている方で、おおよそグラベル系レースはチームのレギュラーとして出場してきた。
その時の経験はきっと使えるはず。まずは昨年の大会の結果やタイムなどから、どんなスピードでどんな展開だったかを予測することが始まる。
レースの結果で知っている選手が以内をチェック。世界では同年代世界チャンピオンはローラン・ブロシャールもいる。
ふと見覚えのある名前を発見。
タエケ・オッペワル、87年オレが初めてオランダに渡った時、ジュニアの時の同じクラブのメンバーでクラブのエース、その後オランダのアマチュアでもプロ入りできるレベルで活躍していた。94年以降はオレもプロになり彼が何をしているのか知ることもなく、今に至る。多分会話したのは87年が最後だ。
彼の名前はオランダのフリースランド州独特の名前と名字で、日本で言うと沖縄の方の名前みたいな感じで、本州ではまずお目にかかれない、そんなイメージだ。
なので彼の名前の自転車選手も、知る限りアマチュアでもプロでも見たことがない。
彼も覚えてくれていて、今回渡航するまでに何度もメッセージのやり取りをして、37年間のギャップを埋まっていくのを感じ、レース前日に一緒に軽くライド。ずっとこの37年間の事をお互いに喋り、あっという間の2時間だった。
レース当日の天気予報は曇雨。オランダらしく雨がやんだり降ったりということになるのだろうか。昨日は午後から天気がどんどん悪くなり、夕方には相当強い雨が長い時間降り続けた。今日のコンディションはマッド、砂地は締まって走りやすいのでは?という目論見だ。
レース会場へはタエケの所属するクラブのメンバーが迎えに来てくれることに。
スタート地点やどこに車を停めればいいのかってノウハウもないし、底を助けてもらえるだけでもハンディを感じない。
ペーター(だったと思う)は年齢少し上で、本当は走る予定だったが体を壊しており今回はスキップ。代わりにアンダー23で選手の息子スヴェンが走るのでチームバスで行くから乗っていけよ、と。
昔船乗りで横浜や神戸に行ったことあるんだぜ、って話で盛り上がりながら会場到着。
もう着替えやゼッケンも装着しているし、車から降りたらそのままスタート地点に行くだけだ。
会場は芝だが雨の影響でドロドロ。スタートまでにタイヤやフレームが泥まみれになりそうだ。エントリーが多かった割に意外と待っている選手数が少ない。前日の雨そして今日の天気予報で多くの選手たちがDNSを決めたのだろうか。
スタート前にタエケと話していても、きっと今日は来ないやつ多いぜ、と言っている。
スタート10分ほど前になってマスターズの各カテゴリーがスタート地点に移動する。
全カテゴリー一斉スタートで、若いカテゴリーから順番に並んでいるが、欲張りの年配者は、隙間から前へ前へと移動している。
タエケもすごい勢いで前方へ。こりゃここでいきなり千切れてしまう!と追従するも、スタートの位置取りでさっそく千切れてしまった(笑)
レースを前に離されるとは!
そしてスタート。
ニュートラル区間があるわけでもなく、前に500人ぐらいいるから、いきなりMaxスピード。オランダのレースらしくすごい勢いで進んでいく。
そして8kmほど進んだところでいきなりグラベル区間がやってきた。
ドロドロヌタヌタ、前輪から刺さって風雲たけし城状態な選手も。そしてほとんどの選手がいきなり押し!なんだかシクロクロスレースみたいだ。
そして200kmほどのグラベルを終えると集団は一列。集団は細切れになっているが追いつける距離のため、各グループが前を目指して全力もがき。なのでどのグループも追いつかずどえらいことになっている。
時速43キロ以上時折45キロ以上。空気圧2気圧弱40Cのタイヤでこれかぁ~~、あと140kmこんなことをするのか・・・けっこう苦しい。
脚もきついが気持ちがきつい。去年の年代トップは5時間弱だが、今回重馬場だと考えると5時間以上こんなことをするのか、と。
常に追走モード。目視で5つほどの集団。各集団30人ほど、すべて一列・・・多分前にもいるのだろう。後ろも同じだろうが後ろを見る余裕がない。
突然曲がるといきなりグラベル。ジープでえぐったような轍だと大きな水たまりで轍の底は見えない。なので林とのキワキワを走ったり。とまるでシクロクロスだ。
前の選手から跳ね上げる泥や泥水を避けたいが避けるスペースはない。口の中に容赦なく泥が入ってくる。舌で口の中を拭うように舐めると、ゴルフボールぐらいの泥玉が出てきて気分が急に悪くなる。
グラベルに入るたびに前でスタックしている選手や泥沼にはまり込んでいる選手、とにかく巻き添えを食らわぬようにしながらポジションを上げていく。
何度かフロントシングルなのにチェン外れも起こす。
衝撃とチェンリングにも泥が乗っかり、時折チェンが空転している。
とにかく想定外のことが頻繁に起こる。そのうち想定外の出来事が想定範囲に感じ始める。
シクロクロスばりにタイヤ1本分の轍に入り込んで滑らないように進んでいくようなシチュエーションでは、かなりアドバンテージを感じている。これもシクロクロスのおかげだろうか。オランダ人でグラベルに乗っているからってみんながシクロクロスに乗っていたり、シクロクロスのテクニックを持っていたり、オレよりシクロクロスのようなバイクコントロールが出来るわけじゃない。こういうポイントで力任せに走らせると、150kmの長丁場体力が持つ自信がない。
40km過ぎで補給地点、ここにタエケのチームスタッフらが待機してボトルを用意してくれるも喉なんて全然乾かない。そして2回目の補給地点80km地点でも。そのままスルーして進んでいく。
90km過ぎでここまでのグラベルセクターよりも長くそして重いのが出現。ほんの少しだが登っているようだ。
コース取りをミスして、というか土地勘なくそのまま突っ込んでいったら実は木の向こうに比較的軽い路面があり、そこで置いて行かれた。
ここでペースアップした結果あっけなくオーバーヒート、自分でもわかるぐらいに失速。前からこぼれてきていた女子エリートライダーをパスしたが追いつかれてしまう。
ここまでフロント48Tで20T前後のギヤで走行してきたグラベル区間、ここはほぼローギヤ。路面の重さもだが完全に脚に力が入らない。少しハンガーノック気味かもしれない。
ここまで同じグループにスタート前に少し会話した同じエイジグループの選手がいたが置いていかれてしまった。あとで知ったのだが彼はエイジで2位。中盤まで一緒に走っていた選手が優勝だったので実はずっと1~3位ぐらいで戦っていたようだ。
100kmを過ぎてようやく残り50km。たった50kmが途方もなく感じる。
グラベルでロードレースのようなものを走るのは、想像以上に体力を削がれる。
残り40km、最悪2時間近く。走っていても早く解放されたいから2時間なんて嫌だ。40代カテゴリーやそれより若い選手に混じっているのできついのだが、ここで耐えさえすれば早く解放される。
残り30kmを切って少し元気になり始める。ビヨルンのショップで仕入れたエネルギーゼリー3つを一気飲みし、体内にエネルギーが充填されたのかもしれない。
残り20kmを切ってからも容赦ないグラベル。気持ちはスタートと変わらないが、明らかにギヤが軽い。何度かローギヤも使っている。平坦なのに・・・
120km地点の補給地点、ここもボトルなくても行けそう、と敢えて取らず。通過する際に、確かにタエケが応援してくれた声が。
ん?前じゃないの??なんで?
と。あとで聞いたら序盤からかなり前にジャンプしたが、若い連中に振り回されてオーバーヒートして終わったらしく、80km地点の補給地点あたりでリタイヤしたらしい。
ラスト10kmを切ると気持ち的に元気が湧いてきた。
コーナーで気づいたがブレーキパッドがまったくないようだ。そして周りの選手の多くもガァ~ッ!とパッドがない音が響いている。中には曲がり切れず体当たりしてくるものも。そしてぬかるみや轍ではミス連発。ラスト50kmだけで5回は足つきをしているが回りも遅くミスしまくり、明らかに集中力が切れている。
ラストのゴールは周りに55才カテゴリーがいないのでゆっくり入ればいいや、と進路を譲るも、ゴールまでの100m弱が泥濘すぎ。超重馬場でゆっくり走ると突き刺さりなので手前で加速し一気に泥を突き抜ける。
リザルトは55才カテゴリーで9位、そして男子の総合でも270位。
700人以上出走し19ー34才と35才カテゴリーで自分より上が170人を越えていたので、40才以上だと二桁完走なので悪くない。
この成績で一応世界選手権の出場資格を得ることができた。
世界選手権は10月第1週ベルギーで開催される。
レースのリザルトはこちら MYLAPS Sporthive Event Results
今回の遠征でグラベルバイクのセッティングなどでいろいろと疑問だったこともクリアになった。そしていろいろと機材含めて考えるべきことも出てきた。
今回は平坦コースでグラベルのエリートライダーでフロント48T採用が気になったので48Tにしてみたが、世界選手権へ46Tでローギヤは42か44でいいかもしれない。
ブレーキパッドは完全になくなり板の金属部分が摩耗し、バネはローターに当たって削れて欠損していた。今回日本である程度あたりを出して、約200~300km使用した状態でスタートしたが、マッドコンディションだったらもっと使用距離を短くし、あたりの出たものを持参しておく方がいいかもしれない。
タイヤは今回シュワルベ・オーバーランド40C
直前までタイヤをシュワルベのオールラウンドと悩み、念のためバイトを用意したがオーバーランドで出走。
泥ではたぶんバイトの方が良かったのだろうが、結果的には全体の転がりを考えるとオーバーランドで良かったのかなと思う。
世界選手権ではドライが確定であればオールラウンドやジーワンRS、もしくはオールラウンドにジーワンRも捨てがたい。この辺りはもう少し悩んでみようと思う。
今回使用したバイクはフカヤさんオリジナルのギザロのプロトタイプ。
詳細は言えないが、将来的に日本で潜られるレースが盛り上がるかもしれないし、世界のグラベルレースで使えるものを今後開発していくためのテストバイク。
まだまだ最終モデルではないし煮つめていくポイントがあるのは事実だが、しかしちゃんと6時間にもわたるレースでちゃんと最後まで戦うことができたのは現時点でもレースで戦えるし、今回でたくさんフィードバックできる。
タエケのチームメンバーも世界選手権出場資格確保を喜んでくれ、みんながせっかくだからベルギーでも一緒に行動しようぜ!と言ってくれたのはありがたい。
タエケは2年前のイタリアの世界選手権50才カテゴリーで4位になり昨年は鎖骨骨折して思うように練習できなかったと言いつつ13位。今年は55才カテゴリーに上がっているから世界選手権では間違いなく目標となるだろう。
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ホテルまでタエケのチームスタッフが迎えに来てくれた。
彼ペーターもマスターズの選手なのだが、いま身体が良くないので今回はスタッフだよ、とのことだった。
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運良くスタート近くに車をパーキング
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各カテゴリーはゼッケンで色分けされている。スタートレーンの入り口に色で表示されている。
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スタートを待つ間、タエケと他のライダーと情報共有。
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スタッフはレースが始まると先回りしていく。
エリートのレースはこんな感じ。パッと見た感じ、グラベルレースには見えない。
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今回レース中に何回も雨嵐に。そして晴れ。
忙しい、オランダらしい天気だった。
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補給地点通過
残り30km地点
この辺りにくるとエリート女子や35才カテゴリー、40才カテゴリーにどんどん追いつく
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ゴールまであと50mほど。
スタート時はまだ芝があったが、700人以上がスタートして200人以上がゴールしたら路面は完全に泥沼
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ゴール直後
本当にきつかった。
過去にパリ~ブリュッセル260kmほどを完走した時も全身痺れて記憶があまりなかったが、その時を思い出すぐらいのきつさだった。
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バイクも泥だらけ
ブレーキパッドなく駆動系も正直確認したくないレベル・・・
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タエケのチームメートにシマノのスタッフがいたので、そのままブースをお借りできた。
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今回こんな洗車機が。
有料だが自転車を放り込んできれいにするらしい。
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洗車機使えば一瞬でキレイ!!
に見えるが、それでもあちこち泥だらけ。キレイになったことで寿命の尽きたパーツ、ブレーキパッドやブレーキローターなど確認しやすくなった・・・それはただただショック
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大会の完走メダルとUCI世界選手権の出場資格クリアのメダル
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ザクっと心拍データを見ると、4時間弱はほぼマックスライド。
そりゃ力尽きるはずだ
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オジサンなのでゴール後はビールでしょ!!