LEL参戦記8

バーナードキャッスルで仮眠すればよかった、と走り出してすぐに後悔するほど、今回の睡魔の波は大きかった。さすがに頭痛がひどく、途中で走行を中断して地面に足をつく。どうするか。というか走るしか、進むしか答えはないのだが、途中で寒いが少しでも寝るか。
とにかくゆっくりでもいいから進んでいく。眠くて判断も鈍いが、2017年の睡魔に飲み込まれて幻覚にも飲み込まれたときからすると、まだ自分が自分をコントロールしている。でもこの先自分をコントロールできる自信はない。だから睡魔が途切れるタイミングが来るまでは無理をせずゆっくりでも進むしかない。

 


ほとんど夜に走り続けるものがいなくなったのだが、それでも同じように先のPCへと進もうとするものがいる。
後方から抜かれて意識が戻る。一人で完結しようとすると睡魔や幻覚に飲み込まれやすい。誰かと会話して頭をアクティブにするのがいい。田舎の町は明かりもついていない住宅と、そして町はずれに墓地。なんだか独り言をしゃべるのもはばかられるエリアだ。

抜かれても無茶苦茶速いわけではないので少し距離を保ってついていく。一人で止まりそうに、歩いたほうが速いんじゃない?なペースよりは明らかに速いので、少し気が荒くなる。このぐらいのほうが正気が保てていい。
遠くで夜が明けてきている。夜さえ明けてくれれば違ってくる。
少し気温は低いがマルトンに6時45分到着。走り出して6時間強。110㎞ほどなのでグロス20キロを切って切るが、もっとロスしたと思っていたので良しとしよう。

ハンバーブリッジ手前のヘッスルには11時06分に到着。ここからは結構勾配のある登っていくのだが、気温は30℃をはるかに超え、そしてアスファルトの照り返しで気持ちが悪い。寝不足も重なりバイクが前に進んでいかない。15時11分にルースに到着。食欲はないが食べないと進めない。そんな足取りの重さを感じ取ったのかPCのボランティアスタッフさんたちが、「何がいる?もってきてやるよ」「暑いか?冷たい水を用意してあげる」と、ありがたい対応で少し生き返った。

おかげでルースのあとのアップダウンはスムーズにこなしていくことができ、ボストンのPCへは明るいうちに到着することができた。

もう食堂も貸し切り。広い食堂で一人で食事。もうLELの食事にも飽きてきたのか喉を通らない。

シント・アイブまで90㎞ほど。なんとか今日中に到着できるか?と思い走り出したが、やっぱり眠い。まだ日が落ちてすぐなので気温が下がっているが夜中に比べるとまだ温かい。走らない選択をするにはもったいなすぎる。
ルート脇にガソリンスタンド発見。日本のようにコンビニがないのでガソリンスタンドのストアーは非常に貴重で助かる。コーヒーとビスケットそしてチョコレートを購入して座り込んでコーヒーを飲むことにする。
日本のコーヒーよりカフェインが強いのか、はたまたしばらく飲んでないからカフェインが効いているのか目がさえてくる。あ、あと80㎞ほど集中して走ろう。
長い運河沿いの直線は飽きてきて睡魔との闘い。途中2人組に抜かれて後方でペースを合わせていたうちはよかったが、相手はDHバー装着だったので徐々に離されていく。
こういう単調なルートでDHバー無しはきつい。が、それも自分で選んだので仕方ない。

PCまで残り2㎞。
もう頭がちゃんと動いていないのだが、それでもここまで自分をコントロールして走ってきた。しかしこの残り2㎞のサイクルコンピューターの表記を見た途端
もうここまで来たからここで寝てもええやん
と、まさに自分のコントロール下から自分が消えていった。
そして気づいた時には自転車は歩道の段差にハスって落車した。
スピードはたぶん15キロもでてないようなものだったが、それでも痛い。幸い大けがではない。自転車の被害状況を確認。ホイールやブレーキ、フレームなどを簡単にだがチェックしたが大丈夫そうだ。落車したことで目がさえる。しかし今ある感覚は絶望感。なんで今ここで寝てもいいと思ったのだろうか。これがまさに自分のコントロール下にない睡魔や幻覚の怖いところだ。

シント・アイブの食堂には一人だけが食べていた。おなかもかなりすいていることに気づきしっかりと食べる。そしてGPSなどを充電させてくれるのだが、誰もいないことでGPSスマホ、ライトと電子機器は全部充電させてもらえた。
食べた後、仮眠所にはいかずそのままテーブルで寝ることに。仮眠所を勧められたが、残り距離が120㎞弱。今が1時前なので3時間ほど寝たとしてもまだ夜明け前で、そのまま走れば遅くても10時にはフィニッシュできる。ここは夜明けまで耐えられる体力を得られればいいので、テーブルのほうがいい。今仮眠所だとそのままひたすら寝てしまいそうだ。
そして2時間ほど途中目は覚めたものの起床。朝方になるとさらに気温が下がって起きづらくなるし、最低気温に近づく前に走り始めたほうが体的には楽だ。
やはり少しでも寝ると頭も体も軽い。

きっと最後のナイトライドになるであろう夜がやってきた

 

シントアイブスを目指して進んでいく

シントアイブスまであと2㎞で寝落ちしてしまう。食事をして仮眠、起きたら出血は止まっていた。