きっとこのチェックポイントでみんな休むだろうと思っていた。21日のフィニッシュペースだと、いったんここで寝るはず。ここからコースプロフィールで言うと峠越えで、この先に安全に進むためには、17時には出ておきたいと考えると約7時間、逆算すると完全ファストランな世界ですべてを組み立てる必要がある。
食事は1回10分目安で仮眠は1回2時間。今回のようにチェックポイントで和気あいあいな食事など休憩時間はほぼ削っていくと、確実にもう一つ向こうのパラッツォ―ロ・スル・セーニオまで130km、峠2つで1700mアップはなんとか今日中もしくは日を跨いですぐにたどり着けるだろう。
書くのは簡単だが、遂行するのは簡単じゃない。パンクやペース維持でオーバーヒート失速などを帳尻合わせるためにさらに追い込んだら・・・自分自身で勝手に難易度を上げてしまいかねない。
だから多くの参加者はいったんこのボルセーナでリセットし、夜明けぐらいのタイミングで峠をクリアするのではと思っていたが、仮眠所になっている体育館に寝ている参加者の数からすると図星だ。
食事はガッツリとピザがまだ胃の中に鎮座している。食べ物は要らないが水は欲しい。
そして寝床の製作。
マットレスと薄いシーツみたいなやつを主催者が置いてるところから持ってきて、そして自前の枕を用意してほぼ瞬殺レベルでまどろみの向こう側へと吸い込まれていく。
目覚ましなり続けたら他の参加者にも悪いしなぁ
そんな気持ちを持っているとだいたい目ざまりが鳴る数分前に目が覚めたりしてしまう。
良いのか悪いのか・・・これはオジサン、というか老人というカテゴリーに近づいている証拠だろう。
到着して寝る準備に小一時間、睡眠時間は今回ミニマム3時間と決めていて0時ぐらいに寝て3時起床、用意出来次第出発ということで3時半スタート。
今日は可能な限りサンブーカ峠の向こう側に行きたい。手前で終えるとフィニッシュは21日の夕方以降になるだろう。21日の正午にはフィニッシュしたい。20日は最終ステージスタートのフォンビオまで行くことが出来れば目標としては最高だ。そのためにも今日は無駄なく無理なく遠くまで走りたい。1000m越2回で320km、なかなかタフだ、覚悟していかねば。
スタートは昨日に引き続きペコさんと。多分自分の走りなんか見なければはるか先に進んでいるんじゃないか、と思うぐらい速いので申し訳ない。全然先に行ってもらって構わないのだが・・・
朝食も付きあわれたしランチも。山岳コースの前でこちらは登り遅いので少しチェックポイントの待機時間を短くして先にスタートした。
ここまで一緒だったイタリア人グループやペコさんらに結局追いつかれる可能性も高いし・・・
まず夜明けにかけて最初の登りをクリアしていく。周りは雲海、ダウンヒルは霧の中で少し肌寒く感じる。そして下り切ったトラジメノ湖、確かこの辺りに2回目のコントロールポイントがあるはずだ。彼女に聞くと自分の思っている距離より少し遠い。ここまで距離に関してはほぼ主催者の提供している距離と誤差がほとんどなかったが彼女の方が2~3㎞遠いようだ。オレの方も下りで誤差が生じたのかもだし、GPSやスマホも使いこなせていないから、だいたいこういうものが絡む案件は非常に苦手なので、こういう時は他人に従うことが多い。
途中湖で写真を撮って休憩。その後彼女がGPS用の乾電池が欲しい、と町を抜けてスーパーに立ち寄るということで自転車の見張りをすることになり店の前にいると、後ろから韓国人参加者がすごい勢いで追いかけてきて、オレを見つけて急ブレーキ。どうやら湖で休憩していたところから200mほどでコントロールポイントに指定されていたカフェがあったそうで、そこで休憩していたらオレたち二人が通過し、「ペコさんに教えてあげないと!」と追いかけてきてくれたらしい。さすが有名人、海外にもファンの人がいるなんて。おかげで見落とさずに済んだ。
レッジェッロからサルティーノへの登りが後半の難所1つめ。イーブンペースで登っていく。
荷物もあり疲れているのもありペースはゆっくり。後ろからドイツ人?に抜かれるが、コンポはフロントシングル、多分カンパニョーロ・エカルだった。
意外とアップダウンのあるロングライドでエカルという選択肢はありなのもしれない。
ロードよりブルべの方が荷物もあるし距離に対して体力をセーブしようとするとギヤは軽くてもいいと思う。今回スーパーレコードワイヤレスで34Tx29T。イタリアの比較的勾配のある峠を繰り返すことを考えると39Tで34Tとかでもよかったし、エカルでフロントギヤを純正ではないが48Tあたりにして、42Tとかでもよかったのかもしれない。
このあたりは次回以降検討したい。
峠を越えたディコマーノで彼に話しかけてみると、今回のエカルはフロント40Tでローギヤ36T、フロントギヤが小さすぎて進まないよ、と嘆いていた。エカルだったら44T一択、ローを42Tにしてもいいのかなと考えていた。
15km1時間半。下りに差し掛かると思ったらしばらくは山の中?で稜線移動、なかなか下らせてもらえない。
ダウンヒルも相当長い。飽きるほどに長かった。
ディコマーノのチェックポイントには10人弱。スタッフの人もこのぐらいの人数だと非常に親切で、水を頼んでもわざわざテーブルに持ってきてくれる。
ここからはとにかく明るいうちに1mでも遠くに行きたい。食べ物をサッと片づけて出発。前半の平坦区間はやや巻き気味、ペースアップしていく。
パラッツォ―ロ・セニーオまでの48km1100m、途中サンブーカ峠1080mを越える難所だ。
16kmほど走ったら徐々に登り始め、20kmを越えたところから37kmまで登りが続く。
本格的に登り始めたところにホテルレストラン発見。食事できるのかと聞いたら宿泊客の対応で暖かいものは無理だがパニーニなら大丈夫という返答。
意外とお腹空いているのと、標高高いところを越えるので念のため少しカロリーを足しておきたい。
カプチーノとパニーニ、多分30分ぐらいは止まっていたがこの区間誰にも追いつかれなかったのだが、このレストランに立ち寄る直前リトアニアンボーイに追いついた(笑)
おいおい、ここから20日はきつくないか???(今は19日)やはりペース配分が少し甘いし、帳尻合わせる走力もまだ確立されてなさそう、と思ったのは図星だったか。
オレが登りで追いついたことに驚いていて、まさかこんなアジア人のオッサンがじわじわと迫ってくるなんて思いもしなかったらだろう。そう考えたら絶対あと1~2回は捕まえて吠え面かかせてやるぜ!なんてことをパニーニ食べながら考えていたらニヤニヤしている自分に気づき、レストランの少女はきっと二度とアジア人に興味を持たなくなったに違いない。
30分止まったことで明るい時間に走れる距離を削ってしまった。が、残り15kmも頂上までないので気温も急転直下と言っても死ぬほどじゃないと想像できるし、ひとまず何とかなりそうな感じだ。
それにしても思った以上に勾配もあるし何より長い。
日本だとこういう作りの峠があまりなく、ヨーロッパに戻ってきて嬉しいことのひとつが、ヨーロッパらしい峠を走れるということだ。
選手時代はよくスペイン南下でひたすら長い峠を探しては登っていたが、どんなに長くても1時間半も登っていなかったから、どれだけ体力落ちて劣化しているか・・・
一旦ひとつめのピークを過ぎて頂上へ。霧に飲み込まれて前が見えない。
下りはガスの中で体が濡れてくる。気温は相当低く、ブライトンの気温は13℃。日中30℃はあるから体感的には冷蔵庫に入っている気分だ。さすが1000m越えの峠、パンチ力が違うぜ!
それでも標高を下げていくと幾分マシに。ステージフィニッシュで寝る気満々だったが個々のチェックポイントはまったく寝る場所もなく、さてどうしたものか・・・と考えていたが、ここから50kmほど下ればルーゴのチェックポイントでようやく仮眠所と食事もある。下り基調だし寒いと言っても走るほどに気温は上がるはずだし、そうなるとさっさと下るほうがいい。
その前に、目の前にあるカフェで何か温かいものを、と走ると参加者6~7人が暖を取っていた。
すると中でやっぱり?リトアニアンボーイがコーヒーを飲んでいた(笑)
身体の芯が冷えている感覚なので、ホットチョコレートを注文。
まさか真夏のブルべでホットチョコレートを頼むなんて自分でも信じられなかったが、まさにそんな気分。
ホットチョコをグッと飲み干して下り始める。きっとここの連中に下りで追いつかれるだろうし、それだったら先に出て自分のペースで走っていよう、と。
コースプロフィールなどをきちんと把握していないが、1080mの峠から約半分下ったとして500m前後の位置。そしてここから50km走って500m下ったとしても脚を止めてフィニッシュに行けるわけじゃない。1時間ほど楽が出来て残りは平坦基調か。
現在の時刻23時頃。フィニッシュに2時間で行けるとは思っていないので1時半以降か・・・
予想していた通り前半は比較的まぁまぁ下っていくが半分行くか行かないかで平坦基調、そして睡魔が襲ってくる。
日本からの時差がベースにあるのと初日の晩はスキップしているので疲労は蓄積している。そう考えると0時ぐらいが走行マックスだが既に超えている。
0時半を回った時、思考回路がおかしいことは理解できていた。
幻覚を見ているわけではないが、意味不明な思考回路で突然Uターンしようとしたり、枝道へ入ろうとしている自分がいる。一旦走行を停止し肩甲骨からグルグル回したり、民家がないことを確認して喋ったりスマホでYouTubeを見たり。
何とか耐えながらルーゴのチェックポイントへ。ラスト5kmほどで雨が。雨予報ではあったが本当に降り出した。もし力尽きなければ辿り着く方が早かったかも・・・
辿り着いたのは1時半ぐらい。倒れ込む前に大急ぎで軽く食べて歯を磨き、体育館に雨音が響くがまったく気にすることなく深海へ沈んでいくかのように身体の全機能が停止するかのように寝落ちしていった。